──はじめに
意思表示による契約は、申込みと承諾によって成立する。ここでは意思表示に欠陥のある契約を5つ取り上げ、順に解説していく。
宅建試験での意思表示の出題率は、ここ数年で5割程度である。昨年も、10月試験では出題されたが、12月試験では出題されなかった。
しかし権利関係の民法の中では、比較的高い出題率といえる。
5つの意思表示のうち、心裡留保と錯誤、詐欺の3つで法改正があった。そういう意味でも、しっかりマスターする必要があるのだ。
無効と取消し、善意の第三者と善意無過失の第三者の違いもしっかり区別しなければならない。
ちなみに善意とは知らないこと、悪意とは知っていることを意味する法律用語だ。
売主と買主、貸主と借主は当事者の関係だし、これら以外の関係者が第三者である。また売主や貸主を表意者と呼ぶこともある。
通常のテキストでは冗長になりがちな意思表示を、できるだけ短くまとめてみた。最後に「意思表示のまとめ」も用意したので、頭の中を整理するのに役立ててもらいたい。
──心裡留保〔93条〕
Aが、売る気もないのに、Bに対して「マイホームを100万円で売る」と意思表示をした。
冗談だとしても、Bが真に受けて100万円を調達したのだとしたら、AはBにマイホームを100万円で売らなければならない。
これが「心裡留保」である。心裡留保による意思表示は、原則として有効となる。
ただし、相手方Bが、表意者Aの意思表示が真意でないことを知り(悪意)、又は知ることができたとき(善意有過失)は、その意思表示は無効となる。
心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
──虚偽表示〔94条〕
Aには多額の借金があり、債権者から土地を差し押さえられそうだ。
それを回避するために、Bと示し合わせて、Aの土地をBに仮装譲渡することにした。ほとぼりが冷めたら返してもらうつもりで。
これが「虚偽表示」であり、相手方と通謀しているので通謀虚偽表示ともいう。
相手方と通じてした虚偽表示は無効である。
そして虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。登記の有無も関係ない。
この善意の第三者には、虚偽表示の目的物を差し押さえた一般債権者も含まれる。
その後、善意の第三者から悪意の転得者に土地が譲渡された場合も、この転得者は保護の対象すなわち善意の第三者と同じ扱いとなる。
一度、善意の第三者が現れた時点で、その後の転得者は悪意であっても保護されるのだ。
──錯誤〔95条〕
Aは、豊島区に所有する甲土地を売りたかったのに、勘違いから文京区に所有する乙土地をBに売ってしまった。
このような意思表示を「錯誤」という。
錯誤による意思表示は、それが法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
ただし、表意者に重大な過失があれば、次の2つの例外を除いて、取り消すことはできない。
①相手方が表意者に錯誤があることを知り(悪意)、又は重大な過失(重過失)によって知らなかったとき。
②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
錯誤による取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない。善意の第三者ではなく、善意無過失の第三者であることに注意。
また錯誤には、上記のような表示の錯誤の他、動機の錯誤というものがある。条文では、法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤という難しい言い回しになっている。
「近くに新駅ができるので、この土地は間違いなく値上がりする」
といった内心に秘めた思いの錯誤だ。だが結局、新駅はできなかったとしたら、取消しが認められるだろうか?
動機の錯誤の場合、表意者が外部にその事情を表示していた場合に限り、取り消すことができる。表示がなければ、取消しは認められない。
──詐欺又は強迫〔96条〕
まず「詐欺」とは、人をだまして錯誤に陥らせ、それによって意思表示をさせること。
対して「強迫」とは、相手方を脅すなどして怖がらせ、意思表示をさせることである。
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
相手方に対する意思表示について、当事者以外の第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り(悪意)、又は知ることができたとき(善意有過失)に限り、その意思表示を取り消すことができる。
詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない。
しかし強迫による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対しても対抗することができる。
──意思表示のまとめ
【心裡留保】
原則有効だが、相手方が悪意又は善意有過失の場合は無効。善意の第三者には対抗できない。
【虚偽表示】
原則無効。善意の第三者には対抗できない。
目的物が移転する過程で、善意の第三者もしくは善意の転得者が現れれば、その後は悪意であっても保護される。
【錯誤】
社会通念上重要な錯誤で、表意者に重大な過失がなければ取消しできる。動機の錯誤の場合、それが表示されていれば取消しできる。
表意者に重大な過失があっても、相手方に悪意又は重過失があったり、表意者と同一の錯誤に陥っていたときは取消しできる。善意無過失の第三者には対抗できない。
【詐欺】
取消しできる。第三者詐欺の場合、相手方が悪意又は善意有過失の場合のみ取消しできる。善意無過失の第三者には対抗できない。
【強迫】
取消しできる。第三者による強迫の場合も取消しできるし、善意無過失の第三者にも対抗できる。
5つの意思表示【権利】|パパリン宅建士
#note 「穴埋め問題」あります↓
https://note.com/paparingtakken/n/nf9a5a2c156cf