──最新の法律用語辞典
私や息子の健斗が使っていた有斐閣の『法律用語辞典』(第3版と第4版)。少々お高いが(5390円)、民法が大改正されて使いにくくなったので、
「そろそろ買い換えないと」
と思っていた。しかし、まだ最新の第5版が発売されていない。そこで有斐閣の代替品になるような法律用語辞典がないか、Amazonで調べてみた。
そしたら三省堂の『デイリー法学用語辞典』(第2版)なるものが発売されたばかりだと知った。価格も有斐閣の3分の1程度である(1870円)。
だが本というのは、実際に手に取ってみないと分からないもの。Amazonにまだレビューがなかったため、取りあえず、近所の書店に足を運んだ。
最新用語の「契約不適合責任」と「遺留分侵害額請求権」が載っているかどうかが選択のポイントだと思い、それを確かめるためでもあった。
載っていた。そういう新しい用語だけではなく、古い用語の「禁治産者」まで載っている。単色ながら紙面も見やすく、解説も長すぎず丁度いい。
この本の帯には、
「法学部生・資格試験受験生必携!」
と記されている。私は、
「値段も安いし、これは買いだな」
と思った。そして数秒後にはレジに並んでいた。
──基本的な法律用語を抑える
初学者の方は特に、テキストを読んでいて慣れない法律用語に戸惑うことも多いだろう。そういう戸惑いを少しでも減らすため、基本的な法律用語の意味くらいは事前に知っておいた方がいい。
中級者以上の方には、以下の解説は当たり前すぎてつまらないかも知れないが、初学者の方々は一通り目を通しておいた方がいいと思う。
【善意と悪意】
善意とは、ある事実について知らないこと、認識していないことをいう。悪意とは、ある事実について知っていること、認識していることをいう。そこに心がきれい、腹黒いといった意味はない。
【第三者】
ある法律関係の当事者「以外」の者をいう。例えば、何かを売ろうとする者と買おうとする者以外の者のこと。貸主と借主以外の者、被害者と加害者以外の者、という言い方に置き換えてもいい。
【対抗する】
法律を盾に、主張することができることをいう。張り合う、という意味ではない。例えば「善意の第三者に対抗することができる」とあれば、「事情を知らない当事者以外の者に主張することができる」という意味になる。
【瑕疵】
かし、と読む。通常、備わっているべきものが備わっていない状態のこと。あるいは何らかの欠点、欠陥があることをいう。
【無効と取消し】
無効とは、最初から何ら法律上の効果が生じていない状態をいう。取消しとは、取り消されるまでは一応有効だが、取り消されると、契約時に遡って無効になることをいう。この概念は極めて重要なので、この場でしっかり覚えておくように。
【故意と過失】
故意とは、わざとすること。過失とは、わざとではないが、本人に不注意や落ち度があることをいう。
【欠缺】
けんけつ、と読む。法律上の要件を欠いていることを意味する言葉だか、最近では「不存在」という言葉に取って代わられつつある。
【違法と不当】
違法(不法)とは、法令に違反している行為または状態のこと。不当とは、法令には違反していないが妥当とはいえない行為または状態のことをいう。
【条件と期限】
条件とは、将来それが発生するかどうか不確実なものに託す場合のこと。期限とは、将来それが発生することが確実なものに託す場合のことをいう。例えば、「あなたが宅建試験に受かったらこの車をあげる」という場合は条件で、「私が死んだらこの車をあげる」という場合は期限ということになる。
【推定するとみなす】
推定するとは、ある一定の事実があった場合に、法律的に「そういうことにしておこう」ということ。反証(反対の証拠)があれば覆される。みなすとは、ある一定の事実があった場合に、法律的に「そういうものとして確定しよう」ということである。確定である以上、反証は許されない。
【直ちに/速やかに/遅滞なく】
直ちにとは「すぐに」という意味で、遅延を許さない趣旨である。速やかにとは、直ちにほどは急迫してなく、訓示的な意味合いが強い。遅滞なくは、先の2つよりは時間的な即時性は弱く、「相当と認められる時間内に」という趣旨がある。
【ただし書】
ただしがき、と読む。条文の内容が2つに分かれている場合、後段の「ただし」で始まる文章のこと。ちなみに前段の文章は「本文」という。
【天然果実と法定果実】
天然果実とは、米や麦、くだもののように、その物の用法によって生み出される物のこと。法定果実とは、家賃や地代のように、物の使用対価として受け取るべき金銭などのことをいう。
【遡及効】
そきゅうこう、と読む。法律上の効力が、その成立以前にさかのぼって適用されること。ただ一般的には「法律不遡及の原則」により、遡及効は認められていない。例外的に、遺産分割や相殺、取消しや取得時効の完成など、特に法律上の規定がある場合に限ってのみ認められている。
【一般承継と特定承継】
一般承継(=包括承継)とは、相続や合併により、他人の権利義務を一括して引き継ぐこと。特定承継とは、売買契約の所有権の移転のように、他人の権利などを個々に引き継ぐことをいう。
【嫡出子と非嫡出子】
嫡出子(ちゃくしゅつし)とは、正式な婚姻関係にある男女から生まれた子のこと。非嫡出子(ひちゃくしゅつし)とは、嫡出子以外の子で、一般的に認知された子のことをいう。
【公法と私法】
公法とは、国や地方公共団体と私たち市民との関係を定めた法律のこと。私法とは、私たち市民と市民の関係を定めた法律のことである。憲法や刑法、行政法などは公法で、民法や借地借家法、商法・会社法などは私法である。
【一般法と特別法】
一般法とは、ある事項について、広く一般的に規定した法のこと。特別法とは、特定の地域や人、事柄などに限って適用される法のことをいう。宅建試験の権利関係でいえば、民法は一般法で、借地借家法や区分所有法、不動産登記法は特別法である。
ただし、この区分けは絶対的なものではない。民法と商法の関係では、民法が一般法で、商法が特別法だが、商法と会社法の関係では、商法が一般法で、会社法が特別法ということになる。
もし一般法と特別法が抵触した場合は、
「特別法は一般法に優先する」
という法律上のルールに従わなければならない。例えば、一部の法律で民法と借地借家法が抵触した場合、このルールに従うと、民法ではなく借地借家法の条文が優先されることになるのだ。
これと共にもう一つ、前法と後法の関係も抑えておきたい。法律が新たに制定されたり、改定されたりした場合、
「後法は前法に優先する」
というルールに従うことになる。古い法律よりも新しい法律の方が優先されるわけだ。当たり前といえば当たり前なのだが、初学者ゆえに混乱することもあるだろうから、この場で覚えてしまいたい。
以下、参照文献
・法律用語辞典(有斐閣)
・デイリー法学用語辞典(三省堂)
・法律を読む技術・学ぶ技術(ダイヤモンド社)
・パーフェクト宅建の要点整理(住宅新報出版)